第27回 鏡石先生社内旅行から戻ったら、いきなり上司が壊れた！

神奈川県鎌倉市　瑛奈さん　32歳

自分自身ではなくて勤め先の直属の上司のことなのですが、担当する仕事に大きな影響が生じていることもありご相談いたしました。彼は40代前半の既婚者で肩書きはサブマネージャー。組織内の特殊事情で課長のポストは他の部署のマネージャーが兼任しているので、実質的に課のリーダーということになります。真摯な情熱とバイタリティがあって人望の篤い人物で、私も異動直後はいろいろと教えてもらうことがありました。仕事上の恩人とでも言うべき、素晴らしい上司でした。

しかし先月、社員旅行へ出かけた直後から、このサブマネの様子が急変したのです。まず新規プロジェクトに関わる重要会議を、発案者である彼がすっぽかすという大失態を犯したのを皮切りに、逐一上層部へ上げなくてはならない報告書が未読のまま放置されるというミスが度重なり、一時は課の仕事全体の流れが完全ストップする異常事態に陥りました。当然、上の方の人たちも驚愕し、本人と何度か面談した上で半ば強制的に医師の診断を受けさせました。しかし奇行は全く治まらず、ついこの間は他課のマネージャーに殴りかかるという暴力沙汰まで起こしてしまいました。ここまでやると懲戒解雇でもおかしくないのですが、専門技能のエキスパートであるため代わる人材が見つからず、現在のところは休職扱いになっています。またこの影響で他の課員が予想外のノルマを負う羽目となり、私も睡眠不足と心労で疲れ果てました。

常識的に判断すれば、ストレスなど心の病で壊れたことになるのでしょう。でもじつは私、異様な光景を見てしまったのです。サブマネがおかしくなり始めた頃、２人だけで残業することがあったのですが、それまで一心不乱にパソコンを打っていたのがいきなりオフィスの隅の暗がりにうずくまり、お経のような謎の文言を唱え始めたんです。驚いて声を掛けたら、にやにやと笑いながら振り返ってきたのですが、その両眼は赤く輝いていました……！言葉の綾ではなく、本当に眼球が真っ赤に光っていたんです。決して幻覚や見間違いではありません。もしかしたら一連の事態には、何か霊的な事柄が関わっているのではないでしょうか？

鏡石先生の鑑定

文面だけでは判断材料に乏しいので、瑛奈さんを含む数人から追加の情報を得ることができました。すると社員旅行の際、問題の男性は宴会後に単独行動し、深夜過ぎにホテルへ戻ってきたという証言が得られました。この出来事を踏み台として遠隔霊視を試みたところ、かつて旅館であった広い廃屋の様子が脳裏に浮かびました。独りで出かけたという先というのは、この不気味な場所に違いありません。社員の皆さんが泊まられた観光ホテルからほど近い場所にあるこの廃屋の景色を、昼間、彼は宿泊先へ向かう途上の車窓から興味深く眺めていたはずです。そしてその瞬間、そこに巣食っていた魔物に魅入られてしまったのです。

それは具体的にどんな存在かというと、まず旅館が営業していた頃に複数の宿泊者が自殺を遂げており、それらの地縛霊をベースにしてさらに動物霊、樹霊、自然霊の群れなどが融合したかなり強力な邪霊です。元々、その土地には特殊な悪因縁が作用しており、江戸時代の頃に疫病などで亡くなった村の住人の死体が捨てられていた形跡も感じられました。この男性はとくに強い霊感体質者というわけではないのですが、先祖筋や前世との絡みで一帯の土地との因縁が深く、そのせいもあって霊との波長が合ってしまったようです。

いずれにしても憑依を受けたという判断で間違いはないので、できるだけ早急に悪霊祓いの祈祷を受けるべきです。こういう場合に最適なのは密教系の加持祈祷に長けた霊能者ですが、もしお心当たりがないようでしたら、私の知り合いの僧侶をご紹介します。祈祷を受ける際に本人の同席が難しければ、そのご家族のどなたかを連れて行くだけでも構わないので、とにかく迅速に動いてください。

相談者のその後

サブマネの奥様とは以前から面識があったので、思い切って電話で呼び出し、先生からの回答内容を伝えてみました。その奥様は四国出身なのですが、小学生の時に近所の女性が狐憑きになった現場を見たことがあるそうで、幸い素直に信じてもらうことができました。彼の奇行振りは家庭内でもかなり酷かったようで、書斎の引き出しにネズミの死骸を集めているのを知った時には気絶しかけたそうです。「こうなったら藁にもすがりたい」と言って、その日のうちに教えていただいたお寺へ一緒に出向き、ご住職の祈祷を受けました。

それから３日くらい経って、今度は奥様の方から電話連絡があり「主人が正気に戻りました！」と涙混じりで言われ、ひとまず安心しました。さらに後日、本人とも話す機会があったのですが、おかしくなってから２週間ほどの記憶がスッポリ抜け落ちているそうです。後は無事に職場復帰してくれるのを祈るばかりです。